mame3zok雑記

i'm just a drummer. i'm just a rider. i love dogs. i love the greatest japanese rock band SPITZ!

おじさん

爆音鳴り響く中 その御老人は必ずいつも最前列にひとり陣取り 開幕から終演まで楽しげに ゆっくりと頭を揺り続けるのだった

おじさん と私たちは皆 彼のことをそう呼んだが おじさん と言うほど若くはない ステージの照明が彼のハゲ頭にピカピカ反射していた 話しかけた者もいたようだが おじさんの素性どころか 名前も 何故いつも聴きに来てくれているのかも噂にならない 聞き出せた者が誰もいなかったのか もしくは意思の疎通すら困難だったのか

YA◯AHAビル最上階の小ホールは 我等が月例会の会場であった 私が大学の頃に所属していたエセ軽音的研究会は 近隣他大学の似たような軽音系サークルや同好会と徒党を組んでいて 大学を越えた音楽の交流や研鑽の場となっていたのだが その集団というか連盟の名称が なんとか… 申し訳ないか忘れてしまったよ んで 月イチの発表会というかライヴがあって そこそこの地元ライヴハウスでメインを張れそうなバンドから とりあえずちょっとバンド組んでみたんですけどの方々まで 日頃のサークルでの活動の成果を演奏で披露する場を与えられていたのだった またこの連盟は 夏場に市内大公園の野外ステージと 年末に市内の大ホールでの大掛かりなライヴをやっていて 腕に覚えのある連中は そこを目標に努力を重ねていて 月例会は それら大舞台のオーディションも兼ねていたような気もする

ステージに上がるのは皆んな大学生で 客席も関係者ばかり ちょっと大人が客席にいるだけですごく目立った が おじさんは図抜けて年上で目立つはずなのに いつも会場に溶け込んでいた ちょっと小太りで いつも作業着のような服をお召しで 出演者や客席の誰と談笑するわけでもなく 客席最前列ほぼセンターに座る 幼稚園のお遊戯会を訪れた御老人が舞台の上の孫を見つけたみたいな笑みを常に浮かべつつ 工事現場のようなヘヴィメタでも シャツを裏返しで着たようなシティポップでも 高熱でうなされてるようなフォークでも 曲のリズムとは全く異なる彼独自のゆったりとした周期で ゆらゆらと前後に 頭8割 身体2割ぐらい揺れ その場の空気を楽しんでいるようだった

本当に謎の御老人だった ただ音楽が好き というだけでは毎度お越しいただく理由としては絶対に足りない きちんとお話を伺うことができたなら 彼がその場に通うに至った経緯とか もしかしたら壮絶な過去を聞けたのかもしれない などとあれこれ想像を巡らすのだが

あれからかなりの月日が経ち 今となっては確かめようがない