mame3zok雑記

i'm just a drummer. i'm just a rider. i love dogs. i love the greatest japanese rock band SPITZ!

青い風船

 夕食後、いつものように嫁と犬の散歩にぶらりと出かけた。まだ8月とは言え、いつの間にやらコオロギがそこここで鳴いている。公園を大回りで一周する。夜の園内は、夏休み最後の日曜日を遊び尽くそうとしてるのか、花火が上がり、バーベキューの煙が流れ、子供のはしゃぐ声、大人の笑い声が聞こえてくる。が、どことなく夏の終わりの寂しさが漂う。公園を巡り終えるとコンビニがあって、普段は車の出入りが多くて賑わっている駐車場が、何故か今夜は閑散としている。
 と、そこに、風船ひとつ、弱々しげに紐を地面に引きずりながら、よろよろと人が歩く程の足取りで横切り、丁度ぼくと犬の目の前で街路樹に引っ掛かった。萎みかけの青い風船だ。ほら、と嫁と彼女の犬にも見せる。ガスが抜けてきていたのか、プラスチックの栓と紐を持ち上げるだけの力がもう無いようだ。プラ栓と紐を外し、風船だけにしてやると、身軽になれて嬉しそうにぼくの指先でゆらゆら風に揺れた。「何て書いてあるの?」と嫁。見ると、如何にも安っぽく、表彰台に乗った三頭のアザラシの絵と、"Seals' Swimming Championship" とかが白く刷ってある。裏面に、能登川町商工会。「どこ、そこ?」「知らん。能登って、石川県かなぁ・・。」「すっごく遠くから飛んで来たんだね、きっと。」「お祭りか何かで小さな子の手からするりと抜けたんだ、その子、空を見上げて泣いたんだろうな。ふーせんいっちゃった、って。」
 娘たちが幼い頃、貰ったばかりの風船を空に放ってしまってベソをかいてたこと、あったよなぁ。どこでだったっけ、どの娘の時だったっけ?自分が幼い頃の記憶なのだろうか、などと考えていると、嫁が「それどうするの?」「ん?飛ばすよ。見ててごらん。」手を離すとすぐ、電線をくぐり抜け、薄いグレーに煙る残暑の夜空に吸い込まれるように昇って行き、あっという間に見えなくなってしまった。「もう見えなくなっちゃったよ。」「速いね。」「上がってくとどうなるの?」「さあね。ガスが抜けるとまた落ちてくるのかな。」「あ、星。」嫁と一緒に星空を見るのは何年ぶりだろう。でも、3つしか見えなかった。