昨日の事だが。夕食後の団欒のひと時、テレビを観ていたら、嫁が、庭で何かがガサゴソしてると言う。何事かと見ると、うちの莫迦犬が塵袋を裂いて中を漁ったらしく、残骸が狭い庭中に散らかっているではないか。これで二度目である。私は意を決し、犬の首筋を捕まえ、拾った残骸を無理矢理鼻先にくっつけ、スリッパで殴った。スパンスパン殴った。一瞬牙を剥こうとしたのがショックで更に強く殴った。泪が出そうになり手を緩めると、犬はいじけて植え込みの奥に隠れてしまった。私は無言で庭を片付け、そのまま部屋へ戻った。少々やり過ぎたか、と暫くは何も手に着かなかった。
やがて餌と散歩の時間となった。もし呼んでも来なかったらどうしよう、と考えつつ、餌袋を持って戸を開けると、すぐ目の前にいつもの犬がいた。ちょこんと座したまま千切れんばかりに尾を振り、お手をしようとしている。その目の邪気の無さ、健気さに安堵して、再度泪が出そうになった。何と言う切り替えの早さ、というか単に莫迦なのだろうが、暖かな毛並みを撫でながら、忠義をただひたすら尽くす事しか知らない犬の愚かさに、私は悲哀と安堵が入り混じった不思議な落ち着きを覚えていた。
